大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14665号 判決

原告

伴啓吾

外三名

右代理人

山根晃

外二〇名

被告

住友海上火災保険株式会社

右代表者

溝口周次

右訴訟代理人

松崎正躬

外三名

主文

一  原告らが被告に対し労働契約上の権利を有することを確認する。

二  被告は、

(1)  原告伴啓吾に対し、金一、一四八万六、一八〇円および別紙目録(一)中金額欄記載の各金員に対する当該年月日欄記載の各日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

(2)  原告藤井浩に対し、金一、五四二万二、三九〇円および別紙目録(二)中金額欄記載の各金員に対する当該年月日欄記載の各日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

(3)  原告小竹敏雄に対し、金一、二七六万三六一〇円および別紙目録(三)中金額欄記載の各金員に対する当該年月日欄記載の各日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

(4)  原告浅井詔三に対し、金九一九万八、五三〇円および別紙目録(四)中金額欄記載の各金員に対する当該年月日欄記載の各日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

三  被告は、

(1)  原告伴啓吾に対し、昭和五〇年一月から同年三月まで金一五万六、六九〇円、同年四月から本判決の確定まで金一四万五、〇八〇円

(2)  原告藤井浩に対し、昭和五〇年一月から同年三月まで金二一万五九〇円、同年四月から本判決の確定まで金一九万四、九九〇円

(3)  原告小竹敏雄に対し、昭和五〇年一月から同年三月まで金一七万七、七九〇円、同年四月から本判決の確定まで金一六万四、六二〇円

(4)  原告浅井詔三に対し、昭和五〇年一月から同年三月まで金一三万一七〇円、同年四月から本判決の確定まで金一二万五二〇円

をそれぞれ毎月二〇日限り支払え。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は第二および第三項に限りかりに執行することができる。

事実《省略》

理由

一被告が海上、火災、運送、自動車等の損害保険およびこれらの再保険事業等を営むことを目的とする株式会社であること、原告らがその主張の日に被告に入社し、その従業員として雇用されてきたことおよび被告が昭和四三年一〇月一六日本件解雇をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二(一)  〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

1  全損保は、全国各地における損害保険事業およびこれに関連する事業に従事する労働者が加入して組織する労働組合である。全損保規約によれば、全損保は、最高議決機関として全国大会、これにつぐ議決機関として中央委員会を置き、全国大会、中央委員会で決議された事項を執行する機関として中央執行委員会等を設け、一企業体の組合員が八〇名を越える場合または八〇名に達しなくても全国大会の承認を得た場合は支部を組織することができることとされている。

住友支部は、被告と雇用関係を有する全損保組合員で組織し、全損保規約にいうその一支部である。その支部規約によると、住友支部は、最高議決機関として支部大会を、執行機関として支部執行委員会を設け、会社の本支店毎に分会を置き、全損保の統制のもとに会社と団体交渉をし、労働協約を締結する等の組合活動を行なうこととされ、昭和四一年三月に労働組合として登記されている。

2  住友支部は昭和四一年一二月九、一〇日、支部規約の定める手続に従い、第五二回臨時支部を開催し、同大会において、住友支部が全損保を脱退する旨および同時に名称を住友労組と変更する旨決議し、同月一〇日全損保に支部脱退届を提出した(第五二回臨時支部大会が開催されたことについては争いがない)。

3  ところで、原告らは、入社以来住友支部組合員として組合活動を続けてきたが、右組合員のうち原告らを含む右脱退決議に反対する者らは、全損保は個人加入を原則とする単一組織の組合であるから、住友支部が支部として脱退の決議をしても脱退賛成者が個別的に全損保を脱退する効力を有するに止まり、単一組織の一支部を全損保から脱退させるものではなく、まして右決議に反対して全損保に残留する意思を表示した者までも全損保から脱退せしめる効力を有するものではないという一致した見解の下に、なおも全損保の一支部である住友支部の組合員たる地位を保持するものと判断し、同月一〇日、とりあえず原告らを含む約二〇名が住友支部臨時総会と称する集会を開催し、支部機能再建のための支部大会までの暫定執行部として支部執行委員一〇名を選出し、またその代表者として原告伴を選出した。

右暫定執行部は、全損保住友支部の名称で、被告に対し、おそくとも同月二三日頃には右執行部の氏名を通知し、同月二八日には労働協約に定める経営協議会を開催すべきことを要求し、昭和四二年一月四日には組合員のチェックオフ等に関して団体交渉を申し入れた。

4  原告らの見解に賛同してなお全損保住友支部組合員であると主張する者は原告らを含め五三名に達するが、これらの者は、昭和四二年一月一五日従前の住友支部規約に従つて臨時支部大会を招集し、同大会において、原告伴を執行委員長に、原告藤井、同小竹を副執行委員長に、原告浅井を書記長に選出した。これらの新執行部は全損保住友支部の名称で同年二月一三日被告に対しその氏名を通知し、引続き、従前の住友支部規約に則つて、昭和四二年二月一一日、九月一五日、一六日、昭和四三年一月一四、一五日にはそれぞれ支部大会を開催し、昭和四二年二月以降少くとも隔月には執行委員会を開催し、昭和四三年一月一一日、一月一六日、一月一八日、一月二〇日、九月一日には被告に対し賃金引上げ要求その他につき団体交渉の申入れをし、昭和四二年二月一五日、三月一七日、三月二九日、七月二〇日、昭和四三年二月八日、三月二二日、六月一一日、七月一七日にはそれぞれ被告に対し賃金引上げ、臨時給与等につき要求を行ない、昭和四二年三月、六月、一一月、昭和四三年三月にはそれぞれ組合員の渡部好明、春田昇、荒井喜代子、松本康夫の配置転換につき被告に対し異議申立を行ない、さらに昭和四一年一二月以降しばしば機関紙あしあとを発行配布した。なお前記五三名の氏名はおそくとも昭和四三年三月二二日には被告に通知された。

(二)  〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

1  昭和四一年一二月一〇日の前記脱退前、被告と住友支部との間の労働協約には、第七条に「従業員は左の各号の一に該当する者及び見習員である者を除き、この組合の組合員でなければならない。同時に組合員は、この会社の従業員でなければならない。(一ないし一八省略)」、第八条に「会社は組合から除名されたものを解雇する。但し会社は解雇に異議のあるときは、組合と協議する。」と規定され、さらに労働協約に関する覚書第三項には、右協約第八条に関し、「ただし書の協議は、最終決定に至るまでの過程を示したものであつて、協議が整わないときは、第七条の主旨に基づき、会社はその者を当然解雇することとなる。」と定められていた(被告と住友支部間の労働協約については争いがない)。被告と住友労組は、昭和四一年一二月一二日、右の労働協約中全損保の統制のもとにある住友支部とあるところを住友労組と読みかえることを確認し、その後両者間で労働協約の改定を行なつた際にも右各条項(本件ショップ協定)は従前と同様のままであつた。

2  被告は、昭和四三年二月一〇日、住友労組より、昭和四三年二月七、八日の第五五回組合大会決議により原告らを除名した旨の通知を受け、さらに、同年二月一七日、住友労組より制裁録および資料の送付を受けた。右制裁録および資料には、従前の住友支部は昭和四一年一二月九、一〇日の第五二回臨時支部大会決議により同月一〇日全損保を脱退し名称を住友労組と変更したこと、その結果原告らを含む従前の住友支部組合員は全員住友労組の組合員となつたこと、しかるに原告らは大会決定に従わず、じごなお原告伴は住友支部執行委員長、同小竹、同藤井は同支部副執行委員長、同浅井は同支部書記長と称し、再三の警告制止にもかかわらず、住友労組の組合規約、大会決定、組合機関の指示、指令に公然反対し、住友労組の分裂を策し、住友労組の団結を侵害するような種々の反組合的分派活動を行ない、その指導的役割を果したこと、住友労組執行部は昭和四二年九月二三日の第六六回執行委員会決議により、同月二五、二六日の第五四回組合大会に原告ら四名を除名するよう提訴したこと、そこで制裁審査委員会が設けられたが、同委員会は審議の結果、同年一二月一〇日除名を相当とする旨組合大会議長に報告したこと、昭和四三年二月八日の第五五回組合大会で原告らの除名が決議され、住友労組は翌二月九日原告らに右除名通知を行なつたことが記載されていた。

その後被告は昭和四三年四月三〇日住友労組から本件ショップ協定にもとづき原告らの解雇の要請を受け、その後も再三同様の要請を受けた。

そこで、被告は、昭和四三年一〇月一六日、本件ショップ協定にもとづき、原告らに対し本件解雇を行なつた。

三そこで、以上認定の事実にもとづき、本件解雇の効力について検討する。

労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善等を図ることを主たる目的とする団体が、独自の規約を有し独自の活動をなしうる社団的組織を形成している場合には、独立の労働組合として存在するものといわねばならないから、本件において、昭和四一年一二月一〇日以後もなお引き続き全損保に残留する旨を表明し住友支部の名称の下に行動している原告らを含む五三名は、前記認定の組織と行動に照らせば、遅くとも住友支部規約に従つて支部大会を開催した昭和四二年一月一五日以降は労働組合を結成しているものというべきであり、これが昭和四一年一二月一〇日以前の住友支部と同一性を有するか否かは別として、住友労組とは別個の組織を有する以上、もはや同労組内における単なる分派行動者のグループたるにとどまるものではなく、それが一個の独立した労働組合であることは到底否定することができない。

ところで、本件解雇当時被告と住友労組との間にいわゆるユニオンショップ協定が締結され、本件解雇は右協定にもとづいてなされたことは前記認定のとおりである。

一般にユニオンショップ協定し、使用者の助力によつて労働組合の団結を維持強化することを目的とするものであるから、その限りでは憲法第二八条が労働組合の団結権を保証している趣旨にも沿うものであるが、企業内に二つの労働組合が併存する場合、その一方の組合と結ばれたユニオンショップ協定の適用により、他方の組合の団結権を侵害する結果を招来することは、憲法第二八条がいずれの組合にも平等に保証している団結権の一方を侵害することになるので許されないというべきである。換言すれば、一方の組合と結ばれたユニオンショップ協定の効力は、他方の組合に加入している者に対しては、他方の組合が団結権の保証を受けるに値する民主的組織を構成している限り、その組合の結成が協定の締結前であるか否か、その組合員が一方の組合を離脱し(脱退しまたは除名され)た者であるか否か、さらにはその離脱が協定締結の前であるか否かを問わず、その者には及ばないと解するのが相当である。もつとも、このように解すれば、ユニオンショップ協定を締結している組合から離脱した者が新たな組合を組織した場合には、その新たな組合がいかに小さなものであつても、もはやユニオンショップ協定を適用できないことになつて、結局ユニオンショップ協定自身の有効性をも否定することにつながるという批判があり得るか、いかに少人数の組合であつても前に判示した労働組合の実態を有する以上その団結権は保障されなければならないし、そのためにユニオンショップ協定を締結した組合の団結権が侵害されユニオンショップ協定自体の効力を減殺することがあるとしても、それは憲法第二八条がいずれの組合にも平等に団結権を保障している結果の反射として止むを得ないものというべきである。

本件についてこれをみるに、本件解雇当時すでに原告らが住友支部と称する組合の組合員であつたことおよび右組合がその団結権を保証するに値する民主的組織を構成していることは前示のとおりであるから、被告と住友労組間の本件ショップ協定の効力は原告らには及ばないものというべく、したがつて、本件ショップ協定にもとづいてなされた本件解雇は、その余の点につき判断するまでもなく解雇事由を欠き無効であるといわねばならない。

四以上のとおり、原告らは本件解雇がなされた昭和四三年一〇月一六日以降も依然として被告の従業員として労働契約上の権利を有し、また被告が同日以降原告らの要求にもかかわらず、その就労を拒否していることは当事者間に争いがないから、被告は原告らに対し所定の賃金を支払う義務があるところ、本件解雇がなかつたとした場合原告らに支払われるべき賃金(月例賃金および臨時給与をいう。以下同じ)の額およびそれらの支給日が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

そうすると、原告らの請求のうち被告に対し労働契約上の権利の確認を求める部分(主文第一項相当)ならびに賃金請求中本件口頭弁論終結(昭和五〇年一月一四日)までに履行期の到来したものおよびこれに対する遅延損害金の支払を求める部分(主文第二項相当)はすべて理由があるから、これを認容すべきである。しかし、本件口頭弁論終結後に履行期の到来するものについては、前認定の本件紛争の経過および被告の支払拒絶の態度に鑑み、本判決確定までの分については予め請求する必要があると認め、これを認容する(主文第三項相当)こととするが、右の事情からすれば、その後の分については被告において任意に支払うものと推認されるから、他に特段の事情がない以上予め請求する必要があるとは認められず、したがつてこの分の請求は失当として棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(大西勝也 光廣龍夫 中田昭孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例